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東京高等裁判所 昭和53年(行ケ)135号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。

二 そこで、審決の取消事由の存否について判断する。

1 審決の取消事由1の(一)の主張について

(一) 成立に争いのない甲第三号証によると、第一引用例には、次の記載があることが認められる。

「……この発明を図面について説明すれば、1はポリエステル樹脂のソリツドロツドで、ガラス繊維のストランドをポリエステル樹脂で固めて成型する。……これを、(イ)……(チ)のごとく樹脂を含浸せしめたロービング2を使用して、いかだ組み、平織成、垣根編み等して骨格を形成し、その表裏にポリエステル樹脂にエキステンダーを加えたものを被着5して、各ロツド間の谷間に該樹脂を充填すると共に、面上に該樹脂膜を一体に被装し、かつ、ロービングの結締部分を強固に被着定着して、ロツド全体を一体に強結する。」

「骨格の素体を中空ロツド(管)に形成していかだ組みした第四図(ヌ)及び(ヌ)のものを合板様に交差させた積層骨格(ル)のものを使用した場合は、第五図(オ)、(ワ)に示し、いずれも前記と同様の工程により樹脂被装後、マツト及びクロースを片面もしくは両面積層する。」(いずれも別紙図面(〔編註〕省略)(二)参照)

(二) 右の各記載によると、第一引用例のものにおいては、骨格となる中空管は、平織様、垣根編み様及びいかだ状に編組されたものが例示されているところ、まず、中空管が相互にほとんど間隙なく、ロービングを介して互に接し合つている右いかだ状に編組されたもの(別紙図面(二)第四図(ヌ)参照)についてみるに、右中空管は、樹脂(なお、この樹脂は、前掲甲第三号証の前後の説明によりポリエステル樹脂であると解される。)を含浸したロービングにより編組され、その表裏にはエキステンダーを加えたポリエステル樹脂が被着され、各中空管間の谷間にも該樹脂が充填されるものであるから、中空管の外周面は、ロービングと接していない部分がポリエステル樹脂により被覆されていることはもちろんのこと、ロービングと接している部分においても右のとおりロービングに含浸されたポリエステル樹脂により被覆されているものであることが認められ、第一引用例にはこの認定を妨げる記載は見当らない。

次に、中空管が平織様(別紙図面(二)第二図(ヘ)参照)及び垣根様(同第三図(チ)参照)に編組されて骨格を形成し、これらの骨格に泥状ポリエステル樹脂を被覆する場合についてみるに、中空管は互に交叉している関係上、その交点ないしこれに極めて近接した領域においては、厳密な意味でポリエステル樹脂は存在できないが、右交点部分は、中空管の全外周の面積に対して極めて微小であるから、合成樹脂の成形という見地においてみるときは、これを無視してさしつかえない程度のものであつて、実質的には中空管の外周面全体がポリエステル樹脂により被覆されているとみるのが相当であり、このように解することを妨げるべき特段の事由は見当らない。

(三) 次に原告は、第一引用例のものは、骨格の表裏に対し、ポリエステル樹脂をそれぞれ別個に充填被着するものである旨主張するので、この点について考える。

原告の指摘する第一引用例の(a)ないし(c)の記載(この記載があることは当事者間に争いがない。)からすると、一見、原告の右主張にそうように解せられないでもない。しかし、右記載は、その各記載をしさいに調べ、その前後の記載部分と併せると、骨格の表裏に泥状ポリエステル樹脂を被着し、これに更に必要に応じ、マツトやクロースを重ねて積層する際における両面積層の方法を説明しているものであり、泥状ポリエステル樹脂の被着のみにとどめる場合の説明ではない。換言すれば、マツトやクロースを積層するについては、表裏を別個に操作する必要があるとしても、骨格の中空ロツド相互間をポリエステル樹脂で充填結着する場合についてまで、これを別個に行うことを述べているものではない。しかも、前記(a)の記載によつても、この後の場合、骨格の各中空ロツド間の谷間にポリエステル樹脂を充填し、該樹脂をロツドに一体に被装することにより、ロツド全体を一体に強結するというのであるから、第一引用例のものが樹脂を別個に被着するものに限ると断ずることはできない。のみならず、たとえ骨格の表裏を別個に充填被着したからといつて、右のとおり一体にされる以上、中空管の外周面上で被覆の切断剥離が必然的に生ずるものではなく、完成された構造物としては差異があるわけでもない(本願発明は製造方法に係るものではない。)ことは明らかである。

(四) 以上(一)ないし(三)に検討したところからすれば、第一引用例には、中空管の外周面の全面にわたり、ポリエステル樹脂で被覆されているものが示されているということができる。

2 同1の(二)の主張について

(一) 前述のとおり、第一引用例には中空管の外周面の全面にわたり、ポリエステル樹脂で被覆されているものが示されているから、原告の主張中、中空管の外周面の全面にわたつてポリエステル樹脂が被覆されていないことを前提とする部分はその前提を欠くものとして失当である。

また、第一引用例のものは、泥状ポリエステル樹脂を中空管相互の間に充填結着しいわば貼り合わせて被着したものであつて、合成樹脂が中空管から剥離することがあるから、緊密に合着することがない旨の原告の主張も、前1に述べたとおり、ポリエステル樹脂は、中空管の谷間にも充填され、全体が一体となつたものであり、貼り合わされたものではないから、失当である。

(二) 原告は、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂とは収縮率が著しく異なるから、本願発明と第一引用例のものとの間には、結着状態に差異がある旨主張する。

(1) ポリエステル樹脂の成形時における収縮率についてみると、

(イ) 成立に争いのない甲第五号証の二には、

ガラス繊維入りのもの  0~2×10-3

プレミツクスに係るもの 2~6×10-3

(ロ) 成立に争いのない乙第一号証の二には、

粒状のもの      4~8×10-3

パテ状のもの     7~10×10-3

ガラス繊維入りのもの 1~4×10-3

(ハ) 成立に争いのない乙第二号証の三には、

無機質のもの     4~8×10-3

パテ状のもの     7~10×10-3

ガラス繊維入りのもの 1~4×10-3

との記載があり、これらによると、ポリエステル樹脂は、その成形時においてガラス繊維入りのものでおよそ0~4×10-3のその他のものでおよそ2~10×10-3の収縮を起こすものと認められる。

(2) ポリエチレン樹脂の成形時における収縮率についてみると、

(イ) 前掲甲第五号証の二には、

高密度のもの   20~50×10-3

中・低密度のもの 15~35×10-3

(ロ) 前掲乙第一号証の二には、

高圧法に係るもの 20~50×10-3

との記載があり、これらによると、ポリエチレン樹脂は、その成形時において、およそ15~50×10-3の収縮を起こすものと認められる。

(3) ポリプロピレン樹脂の成形時における収縮率についてみると、前掲甲第五号証の二には、10~25×10-3との記載がある。

(4) ポリ塩化ビニル樹脂(硬質)の成形時における収縮率をみると、

(イ) 前掲甲第五号証の二には、1~4×10-3

(ロ) 前掲乙第一号証の二には、2~4×10-3

との記載があり、これらによると、ポリ塩化ビニル樹脂(硬質)は、その成形時におよそ1~4×10-3の収縮を起こすものと認められる(なお、板材や柱材の製造に使用されるポリ塩化ビニルは硬質のものである。)。

(5) 第一引用例の発明における泥状ポリエステル樹脂は、ガラス繊維が混入されたものであるか否かは明らかでないが、仮にガラス繊維入りのものであるとしても、成形時におよそ0~4×10-3の収縮を起こすものであることは前述のとおりであり、一方、本願発明において使用する熱可塑性樹脂は、成立に争いのない甲第二号証によれば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル等であるところ、それぞれの材料の成形時における収縮率は前述のとおりであるから、第一引用例の発明における泥状ポリエステル樹脂の収縮率は、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂の収縮率に比較すると小さいけれども、ポリ塩化ビニル樹脂(硬質)の収縮率と同じ程度であるということができる。したがつて、一概に熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂とは収縮率が著しく異なるということはできない。

(三) 以上、(一)、(二)に述べたところからすると、第一引用例のものにおいても、合成樹脂は均等収縮し、中空管と緊密に合着しているものと解され、本願発明と第一引用例のものとの間には、結着の態様において実質的な差異はないものというべきである。

2 同2の主張について

(一) 強度について

第一引用例のものは、ポリエステル樹脂成形物の強化材(補強材)として中空管を骨格として埋設使用するものであることは、当事者間に争いのない事実及び前掲甲第三号証から明らかであるところ、熱可塑性樹脂中に補強材たる中空管を埋設すれば、その成形物の強度がこれを埋設しない成形物に比して大となることは、当然に予想されることであり、この認定を妨げる特段の事由はない。

(二) 中空管内部からの冷却について

前述のとおり、第一引用例のものは、中空管を骨格として埋設する強化プラスチツク構造物であるから、中空管がその外周面の周囲に被覆された合成樹脂を冷却する作用をもつであろうことは、中空管の構造自体から極めて容易に予想できることであり、このように解することを妨げる特段の事由を見出すことができない。

(三) そり、ひけ、垂れ下がりについて

(1) そりについてみるに、補強材として使用する中空管が剛直であれば、そりを生じ易い成形物でも、これが生じにくくなることは極めて見易い事理である。

(2) ひけについてみるに、前掲甲第五号証の二によると、「ひけ」とは、プラスチツク成形品の表面にできる凹みのことであり、その発生原因は、壁厚(肉厚)が大きいこと、肉厚が不均一であること、冷却収縮が不均一に行われることにあるとされており、したがつて、一定のこのような条件下で生ずる現象であるところ、本願発明におけるように、熱可塑性樹脂を用いて形状が斉一といいうべき板材又は柱材を製造する場合にあつては、上述のとおり、第一引用例によつて、中空管の外周面全面にわたつて合成樹脂を被覆形成することが既に公知であることを併せ考えれば、第一引用例のものにおいても本願発明においても、同様にひけを生じないとの効果において差異がなく、当業者としてこれに想到するに困難はないということができる。

(3) 更にいわゆる垂れ下がりについてみるに、原告は、熱可塑性樹脂を押出成形する場合、樹脂の垂れ下がりが生じ易く、良好な板材や柱材を得ることが困難であると主張するが、このような垂れ下がりは、押出速度と冷却速度との不均合等押出成形の操作条件の設定の不適切によるものというほかはなく、熱可塑性樹脂の方が熱硬化性樹脂に比して右操作条件をより適正に行う必要があるということができるにせよ、これを行うことが可能であり、右の操作条件を適正に行うことによつて垂れ下がりは防止すべきものである。本願発明の明細書中にも、中空管を用いることが、いかにして垂れ下がりを防止しうるかについて相当な説明はなく、樹脂の温度依存性に言及するにとどまる。中空管が冷却作用をすることについては、上述のとおり、第一引用例のものにおいても同様であるから、この点についても、本願発明の特段の効果ということはできない。

(四) 結局、原告の主張する本願発明の作用効果は、いずれも容易に予期することのできる効果であるというほかはない。

4 以上のとおりであり、原告主張の審決取消事由は、いずれも採用することができない。

三 よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとする。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

(1) 断面が円形の真直状中空管の外周面全面にわたつて熱可塑性合成樹脂を被覆形成し、この熱可塑性合成樹脂を均等収縮させ、もつて、前記中空管の外周面に緊密合着させることを特徴とする強化合成樹脂板材及び柱材。

(2) 熱可塑性合成樹脂内に異質物を混入することにより表面抵抗を大きくしてある特許請求の範囲第(1)項に記載の強化合成樹脂板材及び柱材。

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